パンとエスプレッソと死と野望(日記)
✴︎パン
朝、少しテンションが上がって、たまごサンドを作った。
半熟のゆで卵を崩して、少量のマヨネーズとたっぷりの粗挽きコショウで和え、食パンに挟んだら重石をし、少し冷蔵庫で寝かしてからカットしていく。
意外と手の掛かる子ね、と思いながら頬張った。スープがとても合う。
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」という吉田篤弘の小説を思い出した。
彼のような、穏やかな青年に憧れる。
✴︎エスプレッソ
昼過ぎ、サラダをコンセプトにしたカフェで昔の友人に会う。
2年ほど同じコミュニティに属していたにも関わらず、私は彼女のことを殆ど知らなかった。当時の私、一体何をしてたんだろう。
色々やっていたつもりでいて、実は何もしていなかったのかもしれない。
彼女との時間は、食器や食材や異国の料理の話で埋め尽くされた。
「食」を大切にし「食」に関わる学科同士だったので無理もない。
「食」は生活の一部で、そしてコミュニケーションにも成り得るのだ。素晴らしいな。
彼女からいただいたウイーン土産の中に、サラダの雑誌があった。
私がサラダ好きなのを知ってくれていたという。
人が求めるものをあげられる人になりたいものだ、としみじみ思った。
店を出た後は、2人してお箸や陶磁器のギャラリーショップへ吸い込まれた。
食事に馴染み、そしてひとの肌にも馴染むようにデザインされている “塗り” や “焼き” には、本当に惹かれる。
こんな素敵な食器で毎日のごはんが食べられたら、きっと幸せだろうな。 料理も頑張っちゃうな。
✴︎死
夕方、カプチーノのお店へ。
よしもとばななのエッセイを読もうと思っていたけれど、隣のおじさん(おじいさん?)同士の会話が気になって、「野望」という言葉くらいしか頭に入ってこなかった。
「誰々が死んだ」「昔はみんな◯◯だった」…彼らの話にはなかなか “今” が出てこない。私も歳を取ったらこうなるのだろうか。
そもそも、私は死ぬまでになにがしたいだろう。私の「野望」は?
いつ死ぬかもわからないのに、少しばかりふんわりと生きすぎなのでは、と少し落ち込む。
私が本当にしたいことはなんだろう。どう生きたいのだろう。
そんなことを思っていたら、彼らは “今” の話をしはじめた。
どうやら聞く限り、彼らは楽しくやっているようだ。少し安心する。
「PCで同人誌が作れる今は本当にいい時代だ」そんな話が出た頃、私は親知らずとサヨナラする為に席を立った。
✴︎野望
抜歯後、120年続く老舗本屋に立ち寄った。
そこは建築物として非常に美しく、またそこには様々なジャンルの本が大量に、そしてあるべき場所にしっとりと存在していた。
凄いと思ったのは、心が求める本の所にいつの間にか辿り着いてしまう、そんな不思議な空間だったことだ。
この世にこんな世界があるのか、と少しじーんときてしまった。こんな素敵な場所に、いつだって行くことができるだなんて。
私は世界の広さ、そして世界そのものの多さを実感し、安心した。
これならきっと、どんなことがあっても大丈夫。どこにだって行ける。そんな気がしたのだ。
私は、たくさんある世界と世界の間を、その広い世界の中を、ふわふわと漂っていたいだけ。
松浦だるまの「累」のような力強い野望があれば色んな私が実現するんじゃないか、とも思うけれど、今の私には切実な野望は必要じゃないのかもしれない。
ただ静かに、平穏に暮らしていたい。
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